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2009.06/17(Wed)

黒歴史 08 後日談

 これを書くと決意してから今日これを上げるまで、ずいぶん長いことかかったような気がします。
ようやく最後を書き上げることが出来ました。最短だというのに、今までで一番時間が掛かりました。

 今回も私小説いきます。自分の中の黒歴史精算企画。
全8話。こちらはその第8話。最終回です。

第1話は黒歴史 01 出会いを、
第2話は黒歴史 02 流れを、
第3話は黒歴史 03 新入りを、
第4話は黒歴史 04 黒く染まるを、
第5話は黒歴史 05 泥沼を、
第6話は黒歴史 06 決別を、
第7話は黒歴史 07 襲撃をご覧下さい。


 では参ります。
今回は、短いですよ。


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   私小説 黒歴史 08 後日談



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 夜襲を受けた後、しばらくは暗闇を恐れながらの帰宅が続いた。
しかし、それも記憶の奥に埋もれるほどの時間が過ぎると、自然と、あの時感じた恐怖も風化していった。
襲撃を受けた後、Yに会うことは一切無かった。
連絡さえ、来ることも、こちらから取ることも無かった。

 その後のYの噂を、いろいろな人から聞くことが多くなった。
どうやら、また違うところで働き始めたらしい。以前と同じく客商売のようだ。
ある日、その店のチラシが入っていたので見てみたところ、今度は「室長」という肩書きでエステのようなことを始めたらしい。
いつまで続くのか……と思っていたら、1年経つか経たないかで、その業務は終了してしまったようだ。
さらに、その大元である店自体も、数年後には閉店してしまった。今では廃墟と化している。

 古巣であるここにも、幾度か来店したらしい。……しかしYは出入り禁止になっているはずなのだが。
店内をぎろりと睨んで同僚に、「こんなんじゃ売れない。酷い売り場だ」などと捨て台詞を残して去っていったらしい。
懲りないと言うか何というか。思わず笑ってしまった。

 Oさんや、Gがどうなったかも、全く分からない。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 そして数ヶ月が過ぎた。振り返ればあっという間だった。何事もない平和な時間が過ぎて行く。気づけば、Yの影に怯えることもなくなっていた。
そして、Yの噂はいつも忘れた頃にやって来た。
やれ“外商の補填を自腹ですることになったらしい”だの、“本社を訴えたらしい”だの。そのどれもが噂の域を出ず、すぐに人々の記憶からも消えていった。本当だったかも、その後どうなったかも分からない。ただ、彼女に関わった上層部の人々は、まるでYにとり憑かれたかのように、一人、また一人と辞めていってしまった。

 プライベートな話も飛び込んできた。お祭りに行っていた、とか、どこぞの店で買い物をしていた、とか。
そのどれにも共通するのは、“隣には旦那さんがいた”という言葉。どうやら旦那さんは相変わらずYと共にいて下さっているようだ。Yを送り届ける際に何度も何度も話したが、本当に良い方だった。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 あれから、幾度も季節は流れた。

 人から聞いた話によると、どうやら今も健在のようだ。
全てに共通するのは、がりがりに痩せている、という事実。
未だにヘビースモーカーなのだろうか。
しかし、彼女を心配する殊勝な気持ちは、私の中にひとかけらも残ってはいない。

 せまい市内、どこかでニアミスしてもよさそうなものなのに、あれから一度もYと私は出会っていない。それはとてもありがたいことだ。だいたい、今更会ったところで、話す事も、掛ける言葉もありはしないのだから。お互いに。

 こうして暗黒の時は終わった。感謝すべき点があるとするならば、あの時受けた不条理な仕打ちによって、かなり撃たれ強くなれたことだけだ。それに付随して、『人の話をきちんと聞いてから怒る』『自分の非を認めたなら、素直に謝る』という、人として当たり前のルールを実践できるようになった。かつて経験した、“こちらの言い分を聞いてくれることなく、怒られまくっていた日々”そして“自分のミスを他人になすりつけ、それを攻めたてるYの姿”。それが意外なところで役に立っている。反面教師というやつだろう。


 Yよ、ありがとう。貴女のおかげで、私は最低の人間にならずに済んだ。
「嫌みが混じっているだろう」と、貴女なら言うだろう。その通りだ。
貴女に対して素直に感謝する心など、重箱の隅を突いたって出てくるわけもないのだから。

 様々な意味でパワフルな人だった。しかし、もう二度と会うことはないだろう。
 最後にもう一度だけ、感謝の言葉を述べよう。

 ありがとう、さようなら。

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End.
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2009.06.16.脱稿

Background Music=ALL-OUT ATTACK(B'z)

以下、あとがきです。

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04:41  |  私小説  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑
2009.06/06(Sat)

黒歴史 07 襲撃

 すっかり遅くなってしまいましたが、ようやくUPにこぎ着けました。いや、長かった。て、毎度この文打ってるような気がする今日この頃。

 今回も私小説いきます。自分の中の黒歴史精算企画。
全8話予定。こちらはその第7話。

第1話は黒歴史 01 出会いを、
第2話は黒歴史 02 流れを、
第3話は黒歴史 03 新入りを、
第4話は黒歴史 04 黒く染まるを、
第5話は黒歴史 05 泥沼を、
第6話は黒歴史 06 決別をご覧下さい。



登場人物
Y=昔は気のいい母さんだった。その後祭り上げられて教祖に。その実状はGの傀儡。しかし店から追い出されて……。通称「姫」
G=人見知り我が儘ハーレム男。仕事中にサボったりやりたい放題だった。Yと共に追い出された。通称「殿」
O=人当たりはいいが常に目だけは笑っていない。かつては人を蹴落とす事に必死だったが、一人残されて途方に暮れている。

 では参ります。


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   私小説 黒歴史 07 襲撃



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 外商部の人々、通称「Y教」がいなくなる少し前。

 仕事上、日に一度は必ず外商ルームに入らなくてはならなかった。
そこには、信者とは一線を置いている男子が常にそこにいた。
 その名を、Wという。

 W君がいてくれると、正直とても助かった。
誰も彼もが私を敵視し、只でさえ息が詰まるその部屋で只一人、私を敵としてではなく、普通のスタッフとして見てくれたからである。

 彼は自部署の仕事が一段落すると必ず外商ルームに来て、「朝まで仕事するな。早く帰れ」や、「働き過ぎだ。身体壊すぞ」とYに小言を言っていた。日課と言っても良い程だ。
Yも、W君の言うことには比較的素直に従うことが多かった。『早く帰れ』という言葉以外は。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 Y達が居なくなって、あっという間に時が過ぎて。
もうYの顔色を伺いながら仕事をしなくても良いのだ。
居ないことにもようやく慣れた。こんなに心穏やかに仕事が出来るなんて、夢のようだ。

 始めのうちは辞めた事も知らず、明日には店に現れるのではないかとびくびくしていたのだが、1週間が過ぎた頃には、すっかり安心しきっていた。

 常務にも店長にも全て話した。周りのみんなも今まで通りの付き合いに戻る事ができた。
自分自身に貼られていた「元信者」のレッテルも剥がすことができ、今まで通り仕事に邁進することが出来た。
信者と呼ばれていた人達は、一人、また一人と辞めていってしまった。やはり「元信者」という色眼鏡で見られることに精神的負担を感じていたのだろう。
かつては私を蹴落とすためにいろいろと苦労していたOさんも、Y達が辞めて1ヶ月ほど後に、やはり辞めてしまった。

 すっかり落ち着いたある日のラス終了後、いつもの仲間と久しぶりに、本当に久しぶりにラーメンを食べに行った。
それはとても楽しくて、ラーメン屋を出た後も、車の中で延々と語らった。
話題は自然と、居なくなったYの事になっていた。そして。

「そろそろ時効かな、と思って」と前置きした上でW君が話し始めた。
それは、私が怒りまくるのに、充分過ぎる内容だった。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

「Hさんあそこに居るとき、俺もいっつも居ましたよね」
「うんそうだねー。……もしかして理由があったとか?」
「……言いにくいんですけれど、Yが言っていた事、そのまま言いますね」
 本当に言いにくいのか、しばらく黙った後、ようやくその一言を教えてくれた。

『Hが私の財布から金を抜き取るかもしれないから、見張っていてくれ』と言われたんすよ」

「な、な、な、な、な…………。
なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!????
ふっふふふふふふふざけるな!!!!!!!」


 気が付けば車の中で、大声を出していた。
ショックだった。ショックすぎて頭が真っ白だった。

 裏切られたとはこのことか。
 いや、違う。

 とうの昔に見限られていたのだ。それどころか、知らぬうちに泥棒扱いしていたのだ。

 W君の話は続いていた。
「なんだかお金に困っているとか言ってましたけど、俺はそんなの信じてませんでした。
何度も『そんな訳ない』と言ったんですけど、聞く耳持たなくて」

 こんな非道い話があるだろうか。一時とはいえ信じていた人物が、本音はどうあれ、かつては「片腕だ」と言ってくれた人物が、開店から共に助け合いながら働いていた人物が、人をいいだけ持ち上げていた人物が。

 ……私のことを一つも信用してくれていなかったのだ。

 どうやら未だに、心のどこかでこのYという人物を信じたい気持ちが、僅かながら残っていたようだ。我ながら、未練がましいことこの上ない。

 そういえば、居なくなる少し前に、Yから変なことを言われたのを思い出した。
曰く「警察から事情聴取があるかもしれないぞ」
Yの財布からお金が消えていくとのことで、警察に届けて、財布の指紋を採取してもらったとか。
そして店中のスタッフの指紋を採るために近日中に警察が来るから、それを受けるようにと。
「それって店のスタッフを疑ってるってこと?」と私は怒りながら聞いたが、
「そんなにムキになるなんて、犯人と言っているようなものだ」などと訳の分からぬことを言い出した。
また始まった。犯人捜しが本当に好きなんだなあんたは。呆れながらも
「指紋採られて困るような後ろ暗いことは、生まれてこの方やったこたないよ。警察来たら協力する」
そう答えてその場は終わったが、その後、警察が来ることも、指紋を採取されることもなかった。

 よく考えたらあいつはあの時、私に探りを入れていたのだ。
『盗んだのはお前だろう』と。

 気付けば、薄く笑っていた。もう、笑うしかなかった。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 次の日、店長に全てをぶちまけた。怒りのままに。
店長は黙って全てを聞いてくれ、部長クラスに報告してくれた。
すべてはYの妄執だとも言ってくれた。
「かなり非道い目に遭っていたんだね」店長が話の締めに呟いた言葉に、理解者を得た気持ちになった。
今も元信者として見られていると思っていたのだが、そうではないと知ってかなり救われた。

 そして、あまりの怒りの深さに笑うしかなかったあの夜から1週間ほど経った後。

 ――私は『襲撃』を受けた。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 深夜。
 いつものように。
何人かの仲間とたわいもないおしゃべりをしながら、帰宅するために車に向かっていた。
店の出入り口から車まで、歩いて1分もかからない。
普段と変わらぬやりとりをしながら、最後に「お疲れ様」の挨拶と共に車に乗り込み、帰宅する。そうなるはずだった。

 わいわいと話しながら車に乗り込もうとしたとき、

「H~~~~~っ!」

 夜中だというのに、大声で私の名を叫びながら、こちらに駆けてくる人影がある。暗闇からやって来るその人物の姿は全く見えなかったが、その声には聞き覚えがある。ありすぎる。

 それはやはりYだった。
こんな夜中に人を待ち伏せし、しかも大声を出しながら向かってくる。それは、忘れていた恐怖を想起させるに充分すぎる光景だった。
まるで、自分がホラー映画の登場人物になったかのようだ。

「何しに来た!私はあんたと話すことなんかもう何もない!」そう何度も大声でのたまいながら、向かってくるYを避けようと、車の反対側に回る私。
対して「誤解を解きに来た」だの「お前は誤解している」だの「いいから話を聞け!」だのと、同じく大声を出しながら、私を捕まえようと、対角線上から私との距離を詰めようとするY。

 その光景はとてもこっけいなものだった。車の周りをくるくる回りながら追いかけっこを繰り広げているのだから。しかもこの真夜中に。
まったく、バターにでもなるんじゃないかと思ったほどだ。
しばらくの間、追いかけっこは続いた。Yも諦めて止まればいいのに、いつまでもぐるぐる走るものだから、こちらも止まることが出来ない。捕まったら何をされるかと思うと気が気ではなかったが、その場にいたW君が私とYの間に立ち、ようやくこの追いかけっこは終了した。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 ようやく止まったものの、私のYを見る目は、いっそ憎しみに満ちていると言ってもいいほどだった。
黙ってYを睨み続けた。今更どの面下げて来やがった、そう視線で訴えながら。

 ある意味愉快な光景を心配そうに眺めていた他のスタッフ達を、「大丈夫だから」と促して、先に帰ってもらった。
その場に残ったのは、先ほどの窮地を救ってくれたW君と私、それに諸悪の根源Yと、彼女の言いなりになった末に職まで追われることになってしまった元社員兼信者兼Gの子分であるRさんの4人だけだった。

 とりあえず全員でW君の車に乗り込み落ち着いて話をしよう、とW君とRさんが提案し、Yはすぐに、私は渋々それに応じた。
車に乗り込んだ瞬間Yが口火を切ったのだが、そのほとんどは聞く価値もない弁解ばかりだった。
自分が辞めさせられた顛末や、本社のお歴々からどれだけ酷い扱いを受けてきたかなど、さも「自分は被害者です。こんなに働いたのに可愛そうです」といいたげな話ばかり。先日私が常務から聞いた話とは180度違っていた。すべて向こうが悪く、自分は何も悪くないそうだ。

 Yに一通りしゃべらせた後、
「人のこと“泥棒”呼ばわりしておいて、今更どの面下げてここに来た。私はもうあなたと話す事など何もない。さっさと帰ってくれないか?あなたにとって、私は“泥棒”なんだろう?」と言った。冷静に言ってやりたかったのだが、先ほどの急襲のため、こちらもかなり頭に来ている。ほとんど喧嘩腰に、叫ぶかのように言った。

 思った通り、「そんな風に思われていたとは心外だ!」だの「そう思ったことなど一度もない!」だの、口調は勇ましいが、明らかに矛盾する発言ばかり繰り返す。

 完全に頭に来た私は、さらにまくし立てる。
「じゃあ、あの時言った『事情聴取』の下りは何?あの時、私がムキになったのを見て『ムキになるなんて、犯人と言っているようなものだ』って言ったのは、あなた自身じゃないか。それって、私を犯人として見ていたってのと同義語じゃないの?」
 言い終わって、思わず深呼吸した。こんなに怒りまくって、しかも一気にしゃべるなんて、ここ最近無かったことだ。そしてYの反論を待つ。しかし驚いたことに、あれだけ弁の立つ人が一瞬無言になってしまった。意外だった。絶対にある事ない事まくしたてると思っていたのに。
さて、どう切り返してくるのだろうか……と、多少意地悪く待ってみた。
すると。

「記憶にない。本当に私が言ったのか?」との返答。

 ……怒りを通り越して、呆れかえってしまった。どう弁明するかと思ったら、『記憶にない』と来たものだ。まるで三流政治家のようだ。
もうこれ以上、こいつと何も話したくない。だいたい、今更何を話せというのだ。
 それを態度に出してみた。要するに、返事をすることを辞めた。

 どうやら、『納得したのだ』と勝手に拡大解釈したらしい。本当に彼女は、物事を自分の都合の良いように解釈する天才だ。
そして、いきなり、そしてむりやり、話を変えてきた。

「本社から常務が来ただろう。何をしゃべった?」

 ……………………………………。

あ――――――――――!
そーかそーかっ!そーゆーことかっ!!!

ただ、それだけを確認したかっただけなんだな。私がYにとって不利益な発言をしないよう口止めするため、もしくは何を言ったのかを聞き出すために。わざわざ夜中にここまで来て。ご苦労なことだ。

「今更関係ないでしょうが。私が何を言おうと」
「関係なくない!何しゃべった?」
「別に。知っていることだけを言ったけど?何か不都合でもある?」
その後も追求は続いた。何が何でも内容を聞き出そうと、向こうも必死のようだ。それをのらりくらりとかわし続ける。

 いつ終わるともしれない詰問に、我慢も限界に達しようとした頃、ようやく一緒に話を聞いていたW君とRさんの仲裁が入り、この不毛な話し合いは終了した。気付けば2時間以上経っていた。

「それじゃ」とそそくさと帰っていくYの後ろ姿を横目に見ながら、堪っていた内心の不快感を、ため息と共に追い出した。
そしてようやくW君にお礼を言うことが出来た。

「いやぁ……本当に、ありがとうね。W君が居てくれなかったらどうなってたか分からなかったよ」
「いやいや、全然っすよ。気にしないで下さい」

 それからしばらく、W君と車で語った。「今の襲撃の要旨は何だったのか?」や、今までのYの態度の総括などを熱く語り合ううちに、時間がどんどん過ぎていき、ようやく「今日の襲撃を店長に報告するためのまとめ」が出来た頃には、朝日が昇っていた。


 本当に助かった。このご恩は一生忘れない。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 次の日、出勤後すぐに店長に報告した。
店長は大変驚き、すぐに本社と連絡を取った上で、「大丈夫だったかい?」どうやら心配を掛けてしまったようだ。
当たり前である。夜中にいきなり待ち伏せを喰らったのだから。店長自身も監禁された事があるため、「人ごととは思えなくて」と言っていた。お互いに、Yをめぐる事件の数々が相当トラウマになってしまったようだ。


 それ以降、私から連絡することも、Yから連絡が来ることもなくなった。
そして、店のハウスルールに「ラス番は固まって帰りましょう」という、まるで小学生の集団下校のようなものが新たに増えた。

 私はというと、帰りには出来るだけみんなの真ん中に陣取り、車に乗ったらすぐ鍵をかけ、速攻車をスタートさせて帰宅した。
店から車までのほんの僅かな距離でさえ、駐車場の遠くの暗がりを注意深く見たり、足音や車のアイドリング音にびくついたりと、かなり小心者になりつつ帰る毎日が続いた。

 本当の意味での安泰の日々に恋い焦がれつつ、不安と焦燥に駆られながら毎日を過ごす。

 ……もういいかげん、解放してくれないだろうか。

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End.
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2009.06.06.脱稿

Background Music=ALL-OUT ATTACK(B'z)

以下、あとがきです。

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20:45  |  私小説  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑
2009.05/23(Sat)

黒歴史 06 決別

 大変遅くなりましたが、ようやくUPにこぎ着けました。

 今回も私小説いきます。自分の中の黒歴史精算企画。
全8話予定。こちらはその第6話。

第1話は黒歴史 01 出会いを、
第2話は黒歴史 02 流れを、
第3話は黒歴史 03 新入りを、
第4話は黒歴史 04 黒く染まるを、
第5話は黒歴史 05 泥沼をご覧下さい。

登場人物
Y=昔は気のいい母さんだった。今は教祖。その実傀儡。通称「姫」
G=人見知り我が儘ハーレム男。仕事中にサボったりやりたい放題。通称「殿」
O=人当たりはいいが常に目だけは笑っていない。人を蹴落とす事に必死。

 では参ります。


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   私小説 黒歴史 06 決別



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 昔々。まだ私がYに対して黒い感情を持つことになるとは思っていなかった、過去の話。
かつて、私にも「恐らくこの人と結婚するのだろう」と思っていた男性が居た。その人とまだお付き合いをしていた頃。

 その日は掛け持ちしている仕事が二つともOFFで、Yと共に、札幌の問屋に商談と本の仕入れをしに行く約束をしていた。
約束の時間は朝10時。車を走らせる私だったが、携帯に気を取られた瞬間、前方の車に後ろから追突してしまった。
前の車はそのまま左脇の店舗に突っ込んでしまい、けっこう大きな事故に。
前の車の運転手さんはむち打ちになり、すぐに病院へ運ばれて行った。わたしは軽いむち打ちになったようだがそれ以外は問題なく、また、突っ込んだ店の窓ガラスは粉々になってしまったが、店内の人々は無傷だった。

 警察と救急車を呼んだ後に保険屋さんを呼び、さらに当時の彼に連絡をした。かなり動揺しながらもそこまでしたところでYとの約束を思い出し、慌てて電話で本日の約束を断った。正直に事故を起こしたことも話して。
その時のYはとても親切で、本当に私の身を案じてくれていた……と思う。多分。

 全ての処理が終わったのは昼を少し過ぎた頃。相手の運転手さんにも病院に追いかけて行ってお詫びをし、警察の現場検証も終わった。
あとは保険屋さんが全てやってくれるとの事だった。

 店に事の一部始終を報告し、Yが居るかどうかを訊ねたが、不在だった。
どうやら私が行けないと分かったと同時にGに連絡をとり、二人で札幌に行ったらしい。
その時は申し訳ないと思いつつも、無理に連絡を取ろうとはしなかった。

 同日は街で祭りが開催されており、親会社が出店していた。そこには社員さんたちがほとんど集合していたので、報告するためにそこへ赴き、迷惑と心配をかけた旨を謝って、差し入れを渡した。社員さん達は「休みだったからなにも迷惑してないよ」だの「どこか怪我しなかったの?」と声をかけてくれた。そして差し入れを嬉しそうに受け取ってくれた。
 その後、当時の彼に誘われるままにお祭り会場を少しだけ周り、帰宅した。
……その時はすこし罪悪感を感じたのだが、それはすぐに私の中から消えてしまった。

 次の日から1週間。Yから徹底的に無視をされた。何か悪いことをしたのだろうか。……いやたしかに事故を起こしてしまったが。
挨拶しても、話しかけても、まったく反応してくれない。先日まではごく普通に会話していたのに。
それはGとはまた違った恐怖感を私に植え付けた。『Yに嫌われたら店に居られない』と密かに囁かれていた事、それは事実だと身をもって知った。しかし休む訳にもいかず、毎日店に行った。笑顔など出るわけもない。顔は常に引きつり、終始俯いたまま仕事をし、人ともほとんど会話をしなかった。

 1週間後、いきなりYに呼び出される。その時には完全に萎縮してしまっていて、今の私からは想像もつかないほどの弱りようだった。
自分でも笑ってしまうほどおどおどし、まともに目を見ることも出来ない。
 私にそれほどの恐怖感を与えることができたのは、後にも先にもY只一人だった。

「どうして私が怒っていたか、分かるか」開口一番問われた。想像はついていたが、ここは惚けることにした。
するとYは一つため息をついた後、「……お前、事故ったその日にお祭りに行っただろう」
 ……やはりそれか。当日の自身のうかつさを呪いながら、じっと暴風が収まるのを待つ。
確かに、最初は挨拶と報告のつもりで会場に行った。しかしその後、誘われるままにあちこちの店を覗いた。『遊びに行った』とは言わないが、遊んでしまったのは事実だ。
素直に非を詫びたのだが、「他の人を傷つけておきながら、自分はお祭りに行くなんて常識がない!」だの「お前がそういう奴だとは思わなかった」だの。それは非道い言われようだった。しかし言われても仕方がないことなので、黙ってそれを聞いていた。

 2時間程経った後、ようやく怒りが収まったのか口調がおだやかになってきた。
だが、その時に言われた「お前らしくないぞ」という言葉が、後々まで頭から離れなかった。
『らしくない』ってどういうことだ。言い訳をするつもりも無かったが、あなたが私の何を知っているというのだ。
 思えばその時が、初めてYに対して怒りを覚えた瞬間だった。と同時に、飴と鞭を使い分ける術に長けているYという人物を、本当に恐いと思った。

 その日以降、今まで通り仲良く接してくるYに、戸惑いつつ今まで通り接した。
しかしあの時感じた恐怖は、私の中に深く根を下ろしていた。その後はYに嫌われないように必死だった。Yの望む仕事をし、Yの望む態度を取る。それはまるで、人形のよう。かくして立派な信者が出来上がった。
 ――自分でも愚かだったと、今なら思うことが出来る。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 無断欠勤をしてから、早半年。
Oさんがはっちゃきになって外商仕事を片付けてくれるので、私はかなり外商から手を引くことが出来た。
大学の定期仕事のみ片付ければ良く、売り場の仕事に専念する日々。正直、前より少しだけ救われた気がしていた。
以前の信者だった頃とは違い、Yとは距離を置いていた。また罵倒されるくらいなら、期待されるようなことをしなければよい。
 以前見た『怒りまくるY』が、未だ脳裏から離れなかった。

 相変わらずGとは冷戦状態。というより「お互いに居ないもの」として、存在自体を無視していた。もちろん挨拶をすることもない。連絡を取り合わねばならないような仕事は全てOさんに振ったので、あとは存在を忘れてしまえば居ないと同じ事だった。
恐らく向こうも同じように考えていただろう。

 数日前から、本社から上層部の人々が入れ替わり立ち替わり店に来ては外商ルームに入り、しばらくしてから出て行くというのを繰り返してた。
おかしいと思いながらも、出来るだけ関わらないようにしていた。

 そして事件は起こった。
 通称「監禁」事件である。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 当時の店長とYは折り合いが悪く、ことある事に衝突していた。
つい先日も何かあったらしいとは聞いてはいたが、それが何故なのかは分からなかった。そういったことは、前なら包み隠さず話してくれていたのだが、例の無断欠勤以来、話してくれなくなっていたからだ。

 夜、YとGが店に戻ってきた。恐らく外回りから帰って来たのであろう。
そして店内で勤務していた、信者でもある男性社員2名が慌ただしく外商ルームに入っていった。
 しばらく経って、総勢4名が連れだって出てきて、これまた慌ただしく2Fの事務所に向かって行った。
丁度、店長が帰る時間だった。

 数分後、「休憩頂きます」と言って2Fに上がったスタッフが、困り果てた顔をして1Fにやって来た。
「……事務所の扉が開かないんです」「………………へ?」
事務所に内線してみたところ、こちらの話を聞く前に「立て込み中」と早口で言われ、叩き付けるように電話を切られた。
レンタルスタッフに確認したところ、事務所の鍵が中から閉められているため、中に入ることが出来ないとのことだった。

「――――。信じられないんですけど」事態を確認した後に私が言った第一声がそれだった。
どうにかしたくても、シンパ以外の社員はその日全員休みだったため、バイトである私達にできることなど何一つ無かった。
仕方がないので以降の休憩は書籍のバックルームで取ってもらったのだが、全員の荷物は事務室奥にある休憩室にあるため、財布を取りに行くことも叶わない。ジュースのひとつも買えぬまま、黙って座って休憩時間が終わるのを待つ。愛煙家の私にとっては、煙草も吸えなくて苦しい休憩だった。
休憩とは言えない休憩を無理矢理取って、文句も言えぬまま、また仕事に戻るアルバイトスタッフたち。
 その状態がようやく終わったのは、4時間以上経った後だったと記憶している。
唐突に西側の階段が騒がしくなった。ふと見ると信者の社員ふたりがばたばたとうるさい音を立てながら降りてきて、大慌てで外に飛び出して行った。
 その後、Gが降りてきたのだが。
……その情況が信じられない。

 あろうことか。
Yをお姫様だっこしてるぅぅぅぅ~~~~!!!!!(爆笑推奨)

 どうやら、監禁途中でYがぶっ倒れ、慌てて自宅に送り返そうとしているようだ。先行して降りてきた社員ふたりは、車を回すために慌てていたらしい。どこかのホテルかっ……という突っ込みはさておき、わたわたと帰宅していったY教信者達。
 その後、みんなに休憩を取り直してもらおうと事務所に様子を伺いに行ったところ、そこには疲れ切った店長がいた。
丁度電話の受話器を置いたところだったので、おずおずと「大丈夫でしたか?」と聞いてみた。
「いや……疲れたよ」よろよろと帰って行く後ろ姿は、朝よりも10歳は老け込んだように見えた。

 後ほど聞いた話によると相当非道い目に遭ったらしく、男3人に恫喝されたそうだ。暴力だけはふるわれなかったようだが。
 Gに至ってはまるでチンピラのようだったという。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 監禁事件の次の日から、上司の出入りはますます激しくなっていた。
そして1週間も経たぬうちに、唐突にYが店に来なくなってしまった。もちろんGも来ない。
二人残されていた信者社員のうち、一人はあれから数日後に辞職が決まっていたので、すでに店には居なかった。
そしてもう一人も、多少、どころかかなり肩身の狭い思いをしながらも、勤務し続けていた。
残されたOさんも変わらず店に来ていたが、その姿は以前とは違っていて、……まるで見捨てられたかのようだった。

 外商ルームにあった書類はおろか、そこにあったPCさえも本社に持って行かれた。
いきなり居なくなるわ、連絡は付かなくなるわ。入院したのかどうかさえも分からない。
居なくなってから二度ほど電話で直接話したが、「いつでも電話していい」と言ったくせに、その後連絡が取れなくなった。
外商だけ心配だったが、お断りは全て本社でしてくれているらしい。
 私はといえば「大学の処理だけは続けて下さい」と店長に言われた為、以前と変わらない処理を行っていた。

 Yの抜けた穴はそれなりに大きくて、スタッフの多数が翻弄される中。
あろう事か、バイトの身だと言うのに常務に呼び出されてしまった。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 呼び出されたのは私だけ。仕事中だというのに「場所を変えようか」と言われた。店では話せないことらしい。
店長と共に、店から車で15分ほど離れた喫茶店に向かった。

 そこで常務からYの勤務態度を聞かれ、私は言葉を慎重に選びながらも、ありのままを正直に答えた。
いつも朝から明け方まで店に居たこと、毎回夜中の2時くらいに昏倒していたこと、それを無理矢理送って帰っていたことや、外商の仕事といっても、何をしているかさっぱり分からなかったことなど。
それらを聞いた後、「絶対に口外しないこと」を条件に、常務が全ての顛末を教えてくれた。(だというのにここで載せてもいいのか?)

 ようするに、外商のお金の流れがよく分からなくなってしまったらしい。
金額的に辻褄が合わず、とうとう本社の監査が入ることになってしまった。だから全てを持って行ってしまったのか。
それを阻止するために、一連の騒動を起こしたようだというのが、私が聞いた話だ。その総額は6桁を超えていた。
 外商の成績を良く見せるため、ありもしない取引先をでっち上げてでもいたのだろうか。

 常務と別れて店に帰り、店長と共に休憩室に入って、思わず同時にため息をついた。
私もかなり緊張していたが、店長も少しは緊張していたらしい。
二人揃って煙草を吸いながら、腹を割って話した。恐らく初めてだったと思う。
店長も、私を『信者の一人』だと今の今まで思っていたらしく、常務の前で次々とぶっちゃける私を見て「見る目が変わった」と言っていた。

 それから私の日々が激変した。毎日が以前のように楽しく、のびのびと過ごすことが出来た。
辛いだけの日々からようやく解放された。長いこと求めて得られなかった日常を、ようやく手にすることが出来た。


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End.
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2009.05.13.脱稿

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以下、あとがきです。

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2009.05/14(Thu)

黒歴史 05 泥沼

 またもや黒くて申し訳なく思っております。そろそろ話のストックが無くなって参りました。
だいぶ書ききったようですが、書けば書くほどすっきり爽快気分から遠のくのは何故でしょう。
おかしいな。「全部吐き出してすっきりしましょう自己満足企画!」だったのですが、世の中上手くはいかないものですね。

 今回も私小説いきます。自分の中の黒歴史精算企画。
全8話予定。こちらはその第5話。

第1話は黒歴史 01 出会いを、
第2話は黒歴史 02 流れを、
第3話は黒歴史 03 新入りを、
第4話は黒歴史 04 黒く染まるをご覧下さい。


登場人物
Y=昔は気のいい母さんだった。今は教祖。その実傀儡。通称「姫」
G=人見知り我が儘ハーレム男。仕事中にサボったりふてくされたりとやりたい放題。通称「殿」
O=人当たりはいいが常に目だけは笑っていない。


 では参ります。


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   私小説 黒歴史 05 泥沼



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 なんとか辞めることなく踏みとどまっていた私だったが、体調はどんどん悪くなっていく。
毎日が苦痛。それ以外に語る言葉を知らない。

 1年ほど経ったある日、全てを投げ出すかのように、やってはいけない事をした。
無断欠勤である。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 その日はベッドから起き上がれず、店に電話を掛けることも出来ず、ただ時計を見ていた。
勤務開始の時間、店から電話が来た。しかしそれに出ることもせず、ただ電話を眺めていた。
暗くなっていく部屋。その中で一人ベッドに横になりながら、何も考えることなく、ただただ時計の針が進むのをぼんやりと眺めていた。
店からの電話はそれから何度も来ていたが、その全てを無視してしまった。出たところで何を話せば良いというのだ。

 夕方、唐突に家のチャイムが鳴った。何事かと思ったが、居留守を決め込んだ。どうせ布団の売り込みとか新聞の勧誘とかだろう、そう思っていた。
 しかし。

 どんどん。どんどんどん。

 チャイムだけでなく、扉を叩く音がする。しかも。
「どうしたー。出てこいー!中にいるんだろう?」
まぎれもなくYの声である。
聞いた瞬間、家の中で固まった。幸い電気は付けていない。カーテンも開けていない。車が外に停めてあるせいで、私が家に居るとは分かるだろうが、このまま黙っていれば「歩いてどこかに出かけている」とでも思って帰ってくれるのではないか。そう思って、いや願っていた。
帰れ、早く帰れ。ただひたすら念じながら、家の中で息を殺していた。

 しばらくたった後、外が静かになった。ようやく引き上げたようだ。ほっとしたのも束の間、今度は携帯が鳴り出した。着歴をみるとYの名が。30秒のコールの後、自動的に留守電になった。それを枕の下に押し込んで、私はため息をついた。
いいかげん、ほっといて欲しいんだが。
 同時に、明日は店に行き、はっきりと「辞める」と言おう。そう思った。もうこれ以上こいつらと付き合っていくのは無理だ。できれば二度と関わり合いたくない。

 コールは何度も何度も来ていたが、全て無視していた。しばらくして、ようやく諦めてくれたのか、携帯が静かになった。
一息ついてようやくベッドから抜け出し、ぼんやりとテレビを見ていたところ、唐突に違う着メロが鳴った。飛びつくように枕の下の携帯を取り出し、すぐに出た。それは当時の彼氏(今の同居人)専用の着メロだったからである。

「今日、無断欠勤した?」と唐突に聞かれ、言葉に詰まる私。私より先に家を出ているのだから、彼がその事実を知っている訳はないのに。……あいつか。あいつがそっちに行ったのか!
「今、Yさんと何だか分からない男が来てね、キミがいきなり休んだんだけどどうしたって詰め寄るから、よく分からないけど明日は必ず行くと思いますよって答えておいたよ」
申し訳なく思い、何度も謝った。彼はそれを許してくれ、「今日はゆっくりしてなさい」と言われて電話は切れた。
 会話が終わった瞬間、黒い怒りが腹の底から吹き上がった。はらわたが煮えくりかえるとはこのことだ。無関係の彼まで巻き込んで。
 どこまで暴走すれば気が済むのだ奴らは。

 夜、帰宅した彼から聞いた話によると、いきなり訊ねて来て私の様子を根掘り葉掘り聞き出そうとし、それに失敗。次は彼の弾劾を始めた。曰く「貴方はH(=私)のことをなんにも分かってない。でも私は分かってる!」「Hを駄目にしたのは貴方だ。貴方のせいでHは駄目になった」……だそうだ。

 呆れすぎて何も言えない。確かに本日は私が悪かったが、何故それが彼のせいになるのだろう。その思考回路が読めない。彼はというと、初対面だというのに相対した途端まくしたてるYにどん引きしたと同時に、後ろに立っているだけのGについて「あいつなに?かなりムカついたんだけど」と、温厚な性格の彼にしては珍しく初見で立腹していた。何でも、黙って立っているだけだったのに、無言で威圧しようとするらしい。ひたすらガン見されてかなり不愉快だったと言っていた。

 もう無理だ。絶対に許さない。私だけならまだ我慢も出来た。しかし彼にまでこんな迷惑を掛けるなんて、何を考えているのだ。
確かに私が悪かった。今日のことは言い訳するつもりもない。だが、どうして彼の職場に乗り込んで、しかも彼自身を糞味噌に言う必要がある?私の事を彼に糞味噌に言うのはまだ我慢もできた。しかし、彼自身のことを、彼に向かって言うなんて、しかも初対面だぞ。

 かなりどす黒いなにかが、私の腹の中でのたうち回っている。怒りと呼ぶには黒すぎるそれを何とか押さえながら、無理矢理就寝した。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 次の日。
 私はいつもの時間に、同じように出勤した。違うのはその心中だけだ。いつもは鬱屈した気持ちで嫌々出勤していたというのに、今日はどちらかというと爆発前、「辞める」その一言が言える瞬間を今か今かと待っている状態だ。まるで祭りの前にも似た高揚感。

 スタッフに昨日の所行を謝っていたら、案の定Yに呼ばれた。決意してYの前に行ったところ、何故か店の中ではなく、隣の茶店で話をしようと移動するY。……別にここでぶちまけてもいいのだが。

 茶店について着席してすぐに、昨日の無断欠勤を謝った。そして「これ以上勤務するのは無理です。もう辞めさせて下さい」とだけ話した。これ以上、Yに語る言葉を私は持たない。

「どうした」だの「何があった」だの「店長が何かしたのか?」だの「スタッフの誰かなのか?」だの。自分のせいだとは思っていないYは、矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。そのへんが失笑ものだった。ああうるさい。そう思いながら黙秘を決め込んだ。本当の理由はY、あなたのせいだ。あなたの存在が私にもの凄い苦痛を与えるのだ。あなたが辞めるか私が辞めるか、私の中ではそこまで来ているのだから、今更何を言ったところで、事態が好転するわけも無いだろう?

 しかし、なかなか解放してくれない。いいかげん店に戻って、後片付けしたいのに。できれば今日にでも辞めてしまいたいが、恐らく1ヶ月くらいは辞められないだろう。それは甘んじよう。だから早く解放してくれ。そう願っていたのだが、私の内心を聞き出すまでは、絶対に解放するつもりはないらしい。
ああああああ!めんどくさいっ!!!

 最初は「給料が少なくて金銭的に苦しい」と言って適当に誤魔化していた。後日、この嘘のせいでえらい目に遭うとはつゆ知らず。
だが、嘘の理由で納得させられる話術など持ち合わせていない。……仕方なく、言うつもりもなかったことを言う羽目になった。言わされたというべきかもしれない。途中から号泣してしまったのが自分でも不覚だった。そこで自分自身でも気付いていなかった理由を自覚した。

 要するに私は、Gに嫉妬していたのだ。
 それまで私の指定席だったYの横。それをやすやすと奪い、次には私自身を外商部門から追い出そうとし、わざわざOを手懐けてまで私を蹴躓かせることに躍起になり、最終的には辞めさせようとしている。
それはほぼ成功したのだから、このまま黙って辞めるのを高見の見物してれば良かったのに、まさかYが止めるとは思ってもいなかっただろう。Gにしては面白くない展開ではないだろうか。
それにしてもどうしてYは私を止めようとするのだろう。そんなにいい人を演じていたいのだろうか。それともミスした時の人身御供が必要なのだろうか。

 同時にひとつ聞いてみた。それは純粋な好奇心からの疑問。

「YさんはGさんに恋愛感情を持っているんですか?」

 我ながら大爆笑な質問だ。どう答えるか見物だと、多少意地悪な気持ちが頭をもたげる。
YESなら公私混同だし、旦那さんもいるというのに何やってんだ!という話になるし、NOなら何故あんな殿のような振る舞いを許しているのか、聞いておきたいとも思ったのだ。
答えはYESでもあり、NOでもあるとのこと。自分とGは男女を超えた仲であり、同時に放っておけない人物だと言っていた。自分が見放したらGには居るべき場所がないからと。あー。奴を見放したらどこでも勤まらないってYも知ってたのか。(失笑)
しかし。何だよそれ。答えになってないじゃないか。うまく誤魔化すなーいつもながら、と思った。

 結局は言いくるめられてしまった。闘うつもりで話に望んだというのに、完全に一人負けだった。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 また、いやな毎日が続く。気が滅入る。話し合ったものの、何も変わることなく過ぎる日々。
というか、無断欠勤したというのに辞めずに済んでしまった。……いっそもう一度やれば辞めさせてもらえるのだろうか。

 ある日、閉店後も帰るそぶりさえ見せない殿と姫を横目に、とにかく話しかけられる前に帰ってしまおうと必死に仕事を終わらせて、何とか撤収に成功した。帰りの挨拶だけはしないと何を言われるか分からないので、嫌々ながら外商ルームに顔を出し、「お先に失礼します」と早口に言って逃げるようにその場を後にしたのだが。

 上に行って退勤して、荷物を持って飛び出せば、晴れてこの牢獄から解放される!あせる足。しかし、Yに呼び止められた。
何か用か。さっさとしてくれ。こっちはもうあなたと話すことなど無いのだ。

 しかし、やたら深刻ぶって話しかけて来るY。心なしか、Gを避けるかのようだ。おそらく私と話すとGが不機嫌になるのではないだろうか。そんな無粋なことを思いつつ、面倒くさげに振り返ったのだが、次に聞いたのは、衝撃的な話だった。

 す、と左腕を出すY。そこには包帯でぐるぐる巻きにされた手首が。いつものように、持病の腱鞘炎でも悪化させたのだろう、とあまり深く考えていなかったのだが、それを指して一言。

「自殺未遂をしたんだ」と。

 はぁ?何いってるんだこのおばさんは。言うに事欠いて自殺未遂って。寝言は寝てから言ってくれ頼むから。そしてさらに言う。
「負けるな。闘え。そうじゃなきゃ、こうなるぞ」

 ……いや、闘えってさ。週刊ジャンプじゃねえんだから。闘うとかどうよ。それに私は自分がそこまで追い詰められているとは思っていない。だいたいその自殺未遂話だって、腱鞘炎を利用して、私をかつごうとでもしてるんじゃないのか?また騙して面白がりたいだけじゃないのか?

 それに。
 たぶん今の私は。

 あなたがそれで、例えば死んでしまったとしても、きっと悲しまないと思う。悲しめないと思う。
それどころか、せいせいしたと思ってしまうのではないだろうか。それはとても恐ろしいことだと思う。


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End.
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2009.05.11.脱稿

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以下、あとがきです。

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06:38  |  私小説  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑
2009.05/13(Wed)

黒歴史 04 黒く染まる

 今回も私小説いきます。自分の中の黒歴史精算企画。
全8話予定。こちらはその第4話。

第1話は黒歴史 01 出会いを、
第2話は黒歴史 02 流れを、
第3話は黒歴史 03 新入りをご覧下さい。

登場人物
Y=昔は気のいい母さんだった。今は教祖。その実傀儡。
G=人見知り我が儘ハーレム男。仕事中にサボったりやりたい放題。
O=人当たりはいいが常に目だけは笑っていない。どうやらGのことが好きらしいよ。


 では参ります。


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   私小説 黒歴史 04 黒く染まる



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 居心地の悪すぎる日々も毎日続くと、体調もおかしくなってくる。
その頃は毎日偏頭痛や原因不明の腹痛に悩まされていた。
必ず、仕事に行く直前に痛み出し、仕事が終わって帰宅する時には止んでいた。
分かっていた。一種の登社拒否なのだ。
休みたかった。辞めたかった。しかし、辞める勇気も奮い起こせず、ずるずると重い身体を引きずって、毎日店に向かっていた。

 無理をしていたのはどうやら私だけではなかったらしい。
例の「教祖」Y。毎日朝8時から朝方4時くらいまで……を毎日毎日続けていたのだから、身体を壊すのも当たり前である。
何やら深刻な病気になってしまったらしく、病院から処方される薬を手放せなくなっていたようだ。
山のような薬の中には強心剤のようなものも含まれているらしく、一応保険のつもりだったのか、私にもそれを寄越した。
私に飲めという事ではなく、自分が倒れてしまったときに口に入れてくれとのことだった。舌下剤というやつらしい。

 何度か仕事場で倒れ、その都度Gが病院に連れて行った。朝も毎日迎えに行っていたようだが、その様子はまるでお抱え運転手のようだった。
いつしか、朝仕事場に来て、外回りの前に病院へ、そして外回りをして夕方帰店。事務仕事をして夜半に倒れたように眠り、それを無理矢理送っていくという図式が出来上がった。
しかし、毎日夜遅くまでGがいる訳もなく、倒れたYを送っていくのは自然と私の車となることが多かった。その時は、Yの他に信者を一人乗せて私が運転し、家に送り届けて旦那さんに迎えに出てもらっていた。しかもその後もう一度店に戻らねばならず、正直かなり面倒だった。毎日帰りは朝5~6時。いくら夕方4時出勤とはいえ、家でゆっくり出来る時間が少なすぎた。
 いつだったか送って行った時、Yがうわごとのように「Gにごめんねって伝えて」と何度も言っていたことがある。まるで遺言のようなセリフだった。喧嘩でもしたのだろうか。どうでもいいことだが。

 その頃には私もYを全く信用しなくなり、倒れても正直「またか」と思うだけだった。自業自得だとも思っていた。
だいたい、そんな無理に仕事しろなどと、誰も頼んでいないのだ。だというのに一人で勝手に無理をして、ばたばた倒れては周りに迷惑をかける。そんな彼女の毎日を、呆れながら冷めた目で見ていた。助けたいとかいう殊勝な心もとうの昔に尽き果てた。
 ただ、さっさと帰りたい、そればかりを思いながら毎日を過ごしていた。

 店では密かにYに「姫」Gに「殿」と名付けて話すようになっていた。
そして、Yの傍若無人さに辟易していた。
帰りには当たり前のように私の車に乗り込み、やれボロボロだの汚いだの買えだのと暴言を吐きまくる。
好き勝手言うな。薄給だというのにどこにそんな余裕があると思ってんだバカタレ。
八つ当たりも当たり前。夜遅くまで残すのも当たり前。
何かあったらすぐ犯人捜しを始める。そして、自分に不利なことは口止めしようとするし、それを忘れて自分で広めた後、「何で言った」「お前しか知るわけないんだ」と、全て私のせいにする。「気を遣え」なんてことも言われたことがある。何を言っているのかと思った。何故あんたなんぞに気を遣わなくてはならないのだ。まずはお客様に対してだろう。それを「自分に対して気を遣え」とはどの口が言うか。
ますますYが分からなくなってきていた。

 伝票ミスがあった時は全て私のせいにされた。作った覚えのない伝票ミスまで私の仕業と言ってはばからなかった。
いいことは全て自分とGの手柄。ミスは全て私のせい。他の人から見たらミスをしまくる私は、どうにもならない駄目スタッフに見えていたことだろう。それでも辞めることなくいるのはY自身の温情からだと、外に見せていたに違いない。

 ただでさえ外商で忙しい(のか?)だろうに、何故か仕事を増やしたY。それは各店巡回だった。
意地悪く言うならば、巡回の名を借りた信者獲得といったところだろうか。
自店だけでは足りないのか、自分のシンパを他店にも増やそうとしているのだろう。そう思っていた。
だが、店に彼女達が居ないと凄く快適で、とても安心して過ごせたから良かったのだが。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 いよいよY、本格的に体調がおかしくなったのか、それとも精神的に追い詰められたのか。
ある日、唐突に私に話しかけてきた。しかもいつもと違ってやたらなれなれしい。それはまるでかつて付き合いが深かった頃のように親しげに話しかけて来る。最近はそんなことも無かったので、何かおかしいと思いながらもそれに付き合った。
やはり心の底ではどこか信じたい気持ちが残っていたのだろう。
最近のY自身のこと、体調のこと、頼みもしないのに色々と話してくる。私はそれをなあなあに聞いていた。
 それはいつしか、上層部への不満や愚痴へと姿を変えて、延々と続いた。元来話術に優れたYであるから、聞いている私もいつしか親身になってしまっていた。騙される典型である。

 そして、頼まれたのは「本社への直訴FAX」。
元信者だった私を騙すのは簡単だったのだろう。それは見ていて最高に面白かったに違いない。
しかし騙されているとも気付かずに、彼女の体調を気遣って直訴状を書く私。一字一句、隣に座るYの言うとおりに書いたそれは、私の筆跡のみを必要とした文面。
「朝8時から朝4~5時まで連日働かされ」「特に改善されることもなく」「毎日薬漬け」「連日倒れるまで働いています」「Yさんを殺すおつもりですか」等々、やたらと喧嘩腰だった。
それをYの診断表とともにFAXした。それがどのような結果をもたらすことになるかなど、思いもせず。

『書かされた』と思ったのは、それからしばらく後。そのことが大問題になってからだった。
騙された。別に私で無くても良かったのだ。与しやすい、そして昔から働いている。それらを総合して私だったのだろう。
しかもそのFAXには「改善されないようなら、私も辞めさせて頂きます」なんて書いている。
辞める気なんて無いのに、これを理由に辞めさせようとしているのでは。厄介払いなのではないか?
そう疑った。連日本社などから上層部の方々が代わる代わる店に来て、Yと話して帰っていくのだが、そこでもGがろくでもなかったらしい。上司が来ているというのに外商ルームでふんぞりかえって座っていて、あまつさえ腕組みしながら上司の話を聞いていたそうだ。
私にも何か聞いてくる人がいたが、「言われた通りに書いたので……」と正直に言った。

 せっかく距離を置いていたのに、この一件でまた「信者」として認識されてしまった。自分のうかつさを呪いつつ、また針のむしろな日々を過ごす。Oさんは相変わらず私を蹴落とすのに必死だし、Gはまるで敵のように私を見る。それまで他のスタッフと良好な関係を築いていた私だが、この二人に睨まれている私と仲良くするのはやはりよろしくない。自然とYさん派の人々は私を無視する、もしくは距離をとって接するようになっていた。……まるで小中学生のいじめのようだ。
恐らく私が根負けして辞めるだろうとでも踏んでいたのだろうか。

 こんなにひどい目に遭っているというのに、以前と同じようにYに話しかけられると普通に接してしまう。
お人好しもここまでくるとバカだ。自分でも分かっているのに、やはり心のどこかで憎からず思っていたのだろう。
そして、OさんとGに対して黒い思いが溢れ出る。Oさんの揚げ足取りには本当に嫌気が差していた。目を見るのも嫌になっていた。
そしてGのことは本当に憎んでいた。YさんはGに踊らされているのだと。Gさえ辞めれば、Yさんは以前と同じ「気のいい母さん」に戻ってくれるだろうと、密かに思っていた。だからといってG排斥運動などできる訳もなかったのだが。

 ここまで来ると意地もある。こんな事で辞めたのでは悔いが残るし、Y教に負けたのと同義だ。
そう自分に言い聞かせながら、毎日勤務していた。自己を武装するために他人を信用することを辞め、自身のみを頼って生きた。
相談したらその人に迷惑が掛かる。そう考えるとY一派はなかなかの策士だったのかもしれない。私から味方を奪ったのだから。


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End.
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2009.05.11.脱稿

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以下、あとがきです。

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