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2009.07/09(Thu)

鍵 中編

 これはARIAの二次創作小説、ジャンルは暁灯里です。
ご勘弁な方はバックを推奨いたします。
また、『鍵 前編』をご覧になっていない方はそちらから先にご覧下さい。

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   鍵   中編



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 次の日。彼は灯里に言われたとおり、朝8時きっかりにARIAカンパニーの扉を叩いた。朝アリシアが出社せずに直接お客様の所に行くことは、前日嫌というほど確認してある。本当ならその場所に行き『アリシアさんを独り占めする羨ましい野郎』の顔を拝みたい所だが、そこは我慢した。自らの忍耐力を総動員して。

「それじゃ、申し訳ありませんが宜しくお願いします。荷物が来たとき、サイン……はまずいかな。一応はんこをここに置いておきますね。それからお昼ご飯はここに用意してあります。午後のおやつの時間に一度、郵便屋さんと一緒にこちらに戻ります。もしもそれより先に荷物の受け取りを完了したのなら、シャッター降ろして扉の鍵をかけてお帰りになっても良いですからね。ええと、その場合、鍵は後日回収します」
 矢継ぎ早に連絡事項を列挙する灯里。しかしその対象は、人の話をきちんと聞いてくれているのかどうなのか。いまいち不安ではあったが、郵便屋さんとの約束の時間に間に合うように出かけたい灯里は、暁を信頼することにした。ばたばたと騒がしく出かける準備を整える一人と一匹。特に火星猫の方はかなり気合いをいれたおめかしを完了していた。
「じゃ、いってきま~す!」
「ぷっぷぷいにゅ~~~っ!」
「おう、とっとと行ってこい。ドジって手紙を運河に落とすんじゃねーぞぉ」
 青年は、「失礼な!」と言うもみ子もとい少女の声を爽やかに無視して、オフィスに戻った。

「……さて……。どうしようか」
 考えたら、このオフィスに一人で居たことなど今まで一度もない。必ず灯里がいたり、アリア社長が背中で遊んでいたり、とっても運が良ければアリシアさんと共にお茶したり、と、常に誰かが居たのだから。しかし今は一人きりだ。どうやって暇を潰せばいいのか、彼は途方にくれた。とりあえず、持参した火炎之番人昇格試験の参考書を懐中から出して、ぱらぱらと捲ってみた。
 横には、灯里が用意してくれた“暇つぶし用”の本が数冊積んであった。……しかし、暁が好んで読むのはどちらかといえば少年漫画。彼女が用意してくれた地球(マンホーム)の古典小説である宮沢賢治の著作は、彼には高尚すぎた。
 しばらくは殊勝にも勉学に励んでいたが、すぐに飽きていつものようにソファに寝っ転がった。眠ってはいけない、のだが。
 ……おきまりのパターン通り、ほどなくしてすとんと眠りに落ちてしまった。役に立たないお留守番である。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

「……つき……つきん…………あかつきん~~」
「……んあ?」
 どうも頭がぼうっとしている。ここはどこだ? などという疑問符が頭をよぎる。自宅の部屋にいるつもりなのだが、何かが違う。しかも目覚めに聞こえる声がいつもの母の声ではない。彼は未だ覚醒せぬ頭で、ぼけぼけとそんなことを考えていた。
 いい年になったというのに、今も母に起こしてもらっているあたり、やっぱりお子ちゃまだったりするのだろうが、これは仕方がないのだろう。男はしょせん、いつまで経っても子どもなのだから。
 薄く目を開けてみると、目に飛び込んだのはそれなりに見慣れた社屋のオフィス。
「あかつきん~~っ! 起きるのだ~~!」
「っ! のわああああ!」
 聞き慣れた親友の、いきなりの大声にびっくりして飛び起きた。声のした方へ目をやれば、つんつん頭がカウンターの外から生えていた。
「……びっくりさすなよ、ウッディー」
 呼ばれた相手はといえば、ずーっと黒髪の火炎之番人の名を呼んでいたらしく、身を乗り出し、眉根を寄せて彼を覗きこんでいた。
「何でここにあかつきんがいるのだ?」
「見て分からんか? 留守番だ!」
「……留守番がそんなにぐーすか寝てたら、意味がないと思うのだ……」
 もっともな意見だが、そこは無視を決め込むことにした。暁が次に口に乗せたのは当然すぎる疑問だった。しかし、ウッディーの職業を考えればすぐに分かりそうなものなのだが。
「んで? なんでウッディーがここにいるんだ?」
「そりゃ、風追配達人だからに決まってるのだ。というわけで、お届け物なのだ!」
 うかつだった。ここで留守番をしている目的をすっかり忘れていたのだから。自分の不甲斐なさを多少は自覚すると同時に、ウッディーから差し出された荷物を受け取り確認する。
「おお!これだこれ! 麗しのアリシアさんがわざわざお取り寄せされた業物! 待ってたぞウッディー!!」
「分かったから、はんこ下さいなのだ」
「おおー。……て、はんこ? オレのサインじゃ……ダメだよな、やっぱり」
「当たり前なのだ」
「……げ。どうしよう……。」
「はぁ。灯里ちゃんからはんこのありかとか、何も聞いてないのかい?」
 ここまで来るとウッディーも呆れ顔を隠すことが出来ない。本当にツメが甘いというか、要領が悪いというか、確認が甘いというか。そして、いつも灯里が印鑑を出してくる場所を確認する。それは難なく見つかった。留守番を任された人物より早く配達人が見つけるというあたり、ウッディーは思わず笑いたくなったがそこは我慢した。ここで笑うとこの留守番が、とたんに不機嫌になるのが手に取るように分かるから。
「ほら、ここにあるから。灯里ちゃん、ちゃんと言ってなかったのかい?」
「ああ――。そーいやもみ子が出がけになんか言ってたような気がするが……」
「あかつきんは昔から人の話をよく聞かないから……。まったく、しょうがないのだ」
「うっ、うるさいわっ! てか、どうしてお前がここのはんこのありかを知っている?」
「ん? そりゃあ、ここへの配達担当は私だし、毎回灯里ちゃんとやりとりしていれば、自然と動作も目に入るわけだし」
 そう答えながらもウッディーは興味深げに幼馴染みを観察した。自分が『灯里』という人名を口にした瞬間、幼馴染みの表情がごく僅かに曇ったような気がしたからだ。彼がそういうことに疎いことは昔から分かっていたけれど、その表情の曇りは嫉妬から来ているのだろうか。だとしたらかなりの進歩だし、親友にも春がやって来たことになるわけだから、誠にめでたい。
 だが、残念ながら暁には、まったく自覚がないようだった。
「ふーん、そうか。ま、いいや。とにかくサンキュな!」
「いやいや。それじゃ、灯里ちゃん、アリシアさん、アリア社長に宜しく言っておいて下さいなのだ!」
 ウッディーは『やっぱりあかつきんはまだ分かってないみたいなのだ』と思いながらそれをおくびにも出さず、暁に一言残すとさっそうとエア・バイクを駆って宙空へ舞い上がった。

「……いつもながら、いい腕してるな」
 あっという間に米粒大になって飛んでいった親友を見送りながら、暁は一人ごちた。そしてサイドテーブルの上に浮き島から持参した手ぬぐい(もちろん洗濯済)を敷き、その上に丁寧に、先ほど受け取った荷物を乗せた。
 留守番という大役も、荷物を受け取るという任務も完了した。一安心しながら時間を見ると、すでに昼を回っていた。暁は、灯里が用意してくれていた昼食を一人で取ると、再び参考書に目を通し……5分後には見事に寝落ちしていた。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 灯里が3時のおやつ時に再び社屋に戻ってみると、留守番を買って出た青年は、豪快にオフィスのソファに横たわって爆睡していた。その傍らには、恐らく家から持ってきたのであろう、火炎之番人の炎の模様の入った手ぬぐいがテーブルの上に敷いてあり、そのさらに上に、大事そうに置かれた段ボール箱がひとつ。側面には『足つぼくんウルトラスーパーDX』の文字が印刷されていた。
 ミッションを完了したのなら鍵を閉めて帰っても良かったのに、自らの手で、この箱をアリシアさんに手渡そうと考えたのだろうか。恐らくそうだろう。朝早くから来てもらっただけでも申し訳ないというのに、このままでは結局、彼の休日を丸一日潰すことになるだろう。だが、彼がそうしたいと願うのなら、止める権利は灯里にはない。
 でも、と、灯里は思う。常ならこのまま彼に午睡を楽しんで頂きたいが、今は郵便屋さんに午後のお茶を楽しんでもらおうと、一緒に来てもらっている。ここまでわざわざお連れした手前、暁には是が非でも起きて頂かなければ。

「アリア社長」
「ぷいにゅ?」
「暁さんをおまかせします。見事、起こして差し上げて下さい」
「ぷぷいにゅっ!」
 ちょっとばかり罪悪感がないではなかったが、やたらと張り切って敬礼なんぞしちゃってるアリア社長に全てを任せることにして、灯里は人数分のお茶と茶菓子の用意を始めることにした。郵便屋さんも暁の対面に座り、面白そうにアリア社長の動向を眺めている。
 ……しばらく後に彼女は、青年の叫び声と火星猫の楽しげな鳴き声、そして壮年の男性の温和な笑い声を聞いた。

「ひっでえじゃねえか。もっと、こう、なんつか、いい起こし方はなかったのかよ」
 顔をタオルで拭きながら、暁が文句をたれる。アリア社長がぺろぺろと舐めた跡が、彼の“それなりに精悍な顔”を台無しにしていた。
「まあ、兄ちゃんも早く拭いて落ち着きな」
 笑いながら郵便屋さんが言う。それを遠目で見ながら、思わず笑ってしまう灯里。
「おらぁ! そこ! 笑うんじゃねえ!!」
 笑う灯里を目ざとく見つけた暁が、苦情を申し立てた。自らの背を丸め、そこを登山中のアリア社長が登りやすいよう密かに助けながら。
「すいません。でも、可笑しくて」
 あまり反省した風でもない灯里の声が、ARIAカンパニーのオフィスに心地よく響く。漂う紅茶の香りと、香ばしく焼けたフォッカチオの香りが鼻孔をくすぐる。
「いやー! 今朝準備しておいて正解でした。焼くだけだから5分で出来るし、おかわりもいくらでもありますよー♪」
 言いながら灯里が、人数分の紅茶と素のフォッカチオやシナモンフォッカチオ、チーズフォッカチオなどが山と盛られた皿と共に台所からやってきた。それらを載せているお盆もかなり大きめな物を使っている。
「……おい」
「はひ?」
「どー考えても量多すぎだろうが! ちったぁ限度を考えろ。太るぞ」
「な! ひどいじゃないですかぁ~。舟漕いでるからこれ位食べても大丈夫なんですよ?」
「はっはっはっ。嬢ちゃんは今日、たくさん舟漕いだからなぁ。これ位食べてもたいしたこたねえな」
「でしょー? さすが郵便屋さん♪」
 さらに暁の反論が続くが、のほほんと聞き流す灯里と郵便屋さん。のどかで騒々しい時間が過ぎていく。

◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇

 ふぅ、と息を吐いてから、郵便屋さんが言った。
「いやー。すっかり邪魔しちまったな。嬢ちゃんは料理も上手だな。旨いフォッカチオだったよ」
「いえいえお粗末さまでした。それにしても、ゆっくりしちゃいましたねぇ」
「ぷーい」
 灯里は卓を片付けながら、アリア社長はすっかり膨れたお腹をさすりながら、郵便屋さんの言葉に答えた。それを合図に午後のお茶会も終了する。
「お、もう行くのか」
 先ほどあれだけ寝ていたのに、腹が膨れたせいなのか、またもや眠そうな暁が言う。
「はい。暁さんも、浮き島にお帰りになりますか?」
「いや、オレ様はアリシアさんのお帰りを待とう。この商品を届けなければならぬ大切な使命があるからな」
「何だか色々とすみません」
「気にするな。オレとお前の仲だろうが」
 灯里に対する一人称『オレ様』をすっかり忘れている、そんな暁の様子を見ながら微笑む郵便屋さん。灯里は台所で手早く食器の下洗いを済ませ、ぱたぱたと出かける支度を始めていた。アリア社長はというと、オフィスのソファで相変わらずくつろいでいる。

「さてと、あと少しだな。兄ちゃん、申し訳ないが嬢ちゃんをもうちょい借りるよ」
 そう言って席を立つ郵便屋さん。
「いっ? いや全然かまわないっすよ、てそうじゃなくて借りると貸すとかそういうあれではなくて、あいつとは全然そういう関係じゃ……って何言ってんだオレ」
 暁はというと顔は真っ赤、口調もしどろもどろになっていた。どうやら眠気が一気に吹っ飛んだ様子である。彼を動揺させた張本人はというと、笑いながらソファから立ち上がり、人好きのする笑顔を残してゆっくりと舟まで歩き去る。そこへ灯里が駆け込んできて、
「行きますよ~。アリア社長!」
 と声を掛けた。アリア社長もすぐに飛び起きて、ぷくぷくと身体を揺らしながら舟に向かって歩き出す。数歩進んで不意に止まり、暁に向かって「留守番は頼んだ!」とでも言うように敬礼を一つ残し、再びぷくぷく歩き出した。どうやら社長にとって“敬礼”が最近のマイブームのようだ。
 暁も社屋から出て皆の乗船を見守る。先ほど赤くなってしまった顔を冷やしながら。
「じゃあ暁さん、すみませんがまた留守番お願いします」
「おう、まかせとけ」
「はーい。じゃ、行ってきまーす!」
「行ってこーい」

 舟に乗り込んだ二人と一匹は、それぞれの仕草で暁に行ってきますの挨拶をした。郵便屋さんは軽く帽子に手を添えて会釈し、灯里は手を大きく二度振ってからオールを漕ぎ出し、アリア社長は舟縁でその短い腕をぶんぶんと降り続けている。暁は外の手すりにその身を預け、片手を軽く上げて見送った。舟は滑るように走り出し、あっという間に水路を曲がって行った。
「……ふーん。あいつも腕、上げたんだな……」
 見えなくなった舟の後を目で追いながら、暁は独りごちる。ふいに風が吹き、彼の束ねた黒髪が前へ流れて来た。
「ううっ、まだちょっとさみいな。早く中に入ろ……」

 彼はまだ気づかない。先ほどの『行ってきます』と『行ってこい』のやりとりで、少し心が温かくなったことを。彼女の帰る場所を守る幸せ、それを知るにはあと数回の季節を要する。

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鍵 後編』へと続きます。

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